さて、前回までに、オプションとはそもそも何なのか、そしてオプションを取引する意味について説明しました。
今回は、オプションの価格がどういう要因で決まるのかを見てみましょう。
オプション価格計算フロー
結論から先に言ってしまいますと、オプションの価格を決定する要因には原資産価格、行使価格、満期までの時間、配当、金利、ボラティリティの6つがあります。そしてこれら6つを何らかのモデルにインプットすることで、オプション価格を計算することができます。
イメージとしてはこんな感じです。
オプションの計算モデルとしては、有名なブラックショールズモデルや、二項分布モデル、モンテカルロなどがあります。
それではインプットをひとつずつ見ていきましょう。
原資産価格
コールは、原資産を予め決められた価格で買う権利のことでした。したがって、原資産の価格が高くなれば高くなるほど、コールの価値はあがります。反対にプットは、原資産の価格が下がると価値が上がることになります。
行使価格
コールは原資産を買う権利ですから、安く買える権利の方が価値があることになります。つまり行使価格の低いコールほど高い価値を持ちます。プットの場合は反対に、行使価格の高いものほど価値が高くなります。
満期までの時間
アメリカン型の場合、満期までならいつでもオプションを行使をすることができます。したがって、満期までの時間が長ければ長いほどコールもプットも高い価値を持つことになります。権利のおよぶ期間が長い方が価値があるわけです。違う言い方をすれば、満期までの時間が長いほど、多くのオプショナリティを持っていることになります。
ヨーロピアン型の場合も、通常は満期までの期間の長いオプションの方が価値があるのですが、常にそうだとも言えません。権利を行使できるのが満期時だけだからです。
例えば、30日後に満期を迎えるコールと50日後に満期を迎えるコールを比べてみましょう。40日後に大きな配当を支払うことが分かっていたとします。その場合、後で説明する「配当落ち」という現象によって株価は下落することが予想されるので、その分コールの価値は下がります。したがって、配当落ち前の30日後に満期を迎えるコールの方が高い価値をもつこともありえるのです。
配当
株が配当を支払うとき、「配当落ち」という現象が発生します。配当は、企業がその資本の一部を株主に還元することですから、配当の支払いを通して理論上は株価が配当分下落することになります。
企業は、配当基準日に株主として登録されている人に対して配当の支払いを行います。日本では株式の決済プロセスに3営業日要するため、配当を受け取るためには配当基準日の3営業日前に株を購入する必要があります。逆に言えば、基準日の2営業日前は株が配当を受け取る権利を伴わずに売買される最初の日であり、この日に株価は配当分下落して取引されると考えられます。この日を「配当落ち日」あるいは「配当の権利落ち日」と言います。
つまり、企業が配当を支払う場合、「配当落ち日」に株価が配当分下がることが予想されるのです。これが配当落ちです。
したがって、満期までに支払う配当額が大きければ大きいほど、コールの価値は減少し、プットの価値は上昇します。
金利
「金利」と一言で言いましたが、実は二つの意味があります。「原資産価格にかかる金利」と「オプションプレミアムにかかるディスカウント・レート」です。ここで説明した、プレゼントバリューとディスカウントレートの考え方を思い出してください。
原資産にかかる金利
金利が上がる(下がる)と将来の原資産の期待価格は上がる(下がる)ことになります。無リスク金利が1%だとしましょう。すると現在の株価が100ドルであるA株の1年後の株価の期待値は101ドルになります。現在の100ドルの価値が1年後の101ドルに等しいわけです。無リスク金利が2%であれば、1年後の株価の期待値は約102ドルとなります。
このように、一般に金利があがれば将来の株価の期待値は上がることになります。したがって、将来のある時点までにその株を買う権利であるコールの価格は上がり、プットの価格は下がることになります。
オプションプレミアムにかかるディスカウントレート
無リスク金利が1%の世界では、「1年後の101ドルの価値が現在の100ドルの価値に等しい」わけですが、当然ながらこれはオプションのプレミアムに対しても当てはまります。
例えば、1年後に満期を迎える行使価格100ドルのコールを持っていたとしましょう。1年後に原資産の株が110ドルであれば、コールを行使して得た株を売ることで10ドルのキャッシュを得られるわけですから、1年後にそのコールは10ドルの価値を持つことになります。しかしその価値を無リスク金利でディスカウントして現在価値に直すと、それは現在の約9.9ドルに等しいことになります。
したがって、この意味においてはコールもプットも関係なく、金利が上がればディスカウントレートが上がるので、現在のオプションの価格は下がることになります。
このように、「金利」が変わると、2つの意味でオプションの価格に影響を及ぼすことになります。しかしながら通常、後者の影響は前者に比べて小さいので、金利が上がればコールの価格は上がり、プットの価格は下がると考えて差支えはないでしょう。
ボラティリティ
ボラティリティ(Volatility)とは英語Volatileの名詞形で、おおまかに言うと「原資産の値動きの激しさを数値化したもの」と言うことができます。
ボラティリティが高い株とは、将来に株価が大きく上がったり下がったりする確率の高い株であると言っても良いでしょう。
これはオプションの価値にどのような影響を及ぼしそうでしょうか。はじめに述べたように、オプションとは「将来のある時刻までに決められた価格で原資産を売買する権利」のことでした。今、あなたがコールを持っているとしましょう。原資産価格が大きく上がればコールを行使することで大きな利益をあげることができます。
逆に原資産価格が大きく下がった場合はどうでしょうか。その場合は単に権利を破棄すればよいわけで、コールに支払ったプレミアム分だけ損をするだけです。
プットを持っていた場合、原資産価格が大きく下がれば大きな利益を上げられるとともに、逆に大きく上がったとしても支払ったプレミアムだけ損をするだけです。
つまりオプションをロングしているあなたからすれば、ボラティリティが高ければ高いほど、損失を限定した上で大きな利益を上げられる可能性が高まることになります。したがって、原資産のボラティリティが高ければ高いほどオプションの価値は上がることになります。
まとめ
原資産価格、行使価格、満期までの時間、配当、金利、そしてボラティリティがオプション価格を決める要因であることを説明しました。この中でボラティリティだけ若干毛色が違います。
というのも、ボラティリティを除くその他の値は明白であるか、もしくは比較的容易に予測がつくものです。
したがって、人によってオプションプレミアムの推定値に違いが生じる場合、それは往々にして推定のさいに用いているボラティリティの違いに由来するものです。その意味において、オプションのトレードはボラティリティのトレードだと捉えることができます*1。
今回は、オプションの価格がどのようにして決まるのかを見てきました。次回は、今回登場したボラティリティについてより詳しく解説します
*1:人によって、オプションプレミアムを推定するさいに用いる配当額や金利が異なれば、当然それによってオプションプレミアムに違いが生じます。その場合は、ボラティリティの高低を基準にトレードを行うのではなく、配当額や金利に関する意見の相違がトレードを行う動機となる場合もあります。例えば、マーケットが示唆している配当額が小さすぎると思えば、ロングプットやショートコールが有効なトレードとなるでしょう。